2019年4月24日    ホテル渓谷 滝上
 
 毎年5月半ばを過ぎると滝上(たきのうえ)は一面芝桜でおおいつくされる。芝ざくらの花期は6月上旬、ときに6月中旬までと長い。1983年5月にオープンしたホテル渓谷は北海道紋別郡滝上町芝ざくらで有名な滝上公園に隣接し、密生する芝ざくらの規模は約10万平方メートル、甲子園球場の7倍である。
1980年代の平日は見物客もまばらで、ホテル内の「森のレストラン」のそばに渚滑川が流れ、5月半ば〜6月半ばの芝ざくらとともに、9月末〜10月半ばの渚滑川錦仙峡も美しい。錦仙峡には遊歩道もあり、渓流と紅葉の散策は魅力的。
 
 滝上の芝ざくらを初めて見たのは昭和59年(1984)5月末だったか、同年5月24日、国道273号線に浮島トンネル(全長3332メートル)が開通し、それまでは上川から滝上方面は曲がりくねった狭い道を通らねばならなかったが、トンネル完成でルートが変更(滝上公園に沿う)され、時間も短縮した。
トンネル見物を兼ねて伴侶と共に紋別を出発、滝上までは約40分(36キロ)のドライブだ。道路の起伏が多くなれば滝上。対向車のいない快適な坂道を数回上下し、何度目かの上り坂を登りきると突然視界が開け、右手の丘の斜面に桃色の巨大な絨毯。圧巻というほかない光景がせまってくる。
 
 道東の観光名所の駐車場はそのころすべて無料。滝上公園の広大な駐車場に車は10台も駐まっていたろうか。斜面の頂まで芝ざくらで占められており、超広角レンズに交換しても全体を撮影できない。芝ざくらの間に設けられた小道を回ると歩いたという実感がわく。「孤独のグルメ」(テレビ東京 2012年放送開始)のように仕事帰りでもないのに腹がへった。伴侶の顔にもガス欠と書いてある。
 
 浮島トンネルを往復して昼食のはずが、腹がお昼にしようと言う。「滝上なら何もないところだよ。去年(1983)国民宿舎みたいなホテルが建って、なかに食堂があるっていうけど」と紋別の人から聞いたところへ行ってみよう。
真新しい「ホテル渓谷」はロゴハウスを大きくしたような木造りで、周囲の景観とマッチするステキな建物だった。エントランスを抜け右に進むとレストランがある。その名も「森のレストラン」。決してお洒落とはいえない、国民宿舎の食堂という感じである。
 
 外見と中身は違う。注文したカレーライスは都市部のホテルのレストランのごとくルーは金属製の容器に盛られ、皿のご飯は軟らかすぎず硬すぎず、ふっくら、ほっこり。ルーの色は濃く艶もよく、さらっとしてはいるが、ほんの少々粘りっけもあり、ご飯にかける装いも上々。味はというと、これがもう絶品。
紋別に帰って報告したら、「そうかい、口に合ったかい。そりゃよかったね」。なに、カレーのうまさは定評があったのであるが、「都会っ子にはどうだかね」と考え、黙っていたらしい。以後、芝ざくらの季節以外、9月、10月もカレーを食べるため滝上へ行くようになった。
 
 それで浮島トンネルの件ですが、トンネル内の道幅が狭く、照明も暗く、アップダウンもあり、ヘッドライトが道の先まで十分に届かない、したがってスピードを出せない緊張トンネルでした。
 
 
                滝上 芝ざくら


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