2019年4月20日    花吉兆 祇園
 
 吉兆本店は嵐山渡月橋から約300メートル西の保津川沿いにある。25年前に5万円(おまかせ懐石は時価)だった懐石料理は徐々に2種類、3種類と選択可能となってきはしたけれど、税サ込の料金は約5万〜7万数千円、おまかせは10万円程度となり、昔も今もちょっとそこまで夕食へというには二の足を踏む料理店である。
 
 嵐山の吉兆は別として、船場吉兆はかつて「つけまわし」騒動を起こし、2007年12月下旬テレビにその場面が放送され物議をかもした。吉兆創業者・湯木貞一の三女(船場吉兆社長)が記者会見席上において、長男に「XXXXと言いなさい」などと小声で耳打ちし、長男がオウム返しに言った音声をマイクが拾って茶に間に流れたのだ。近年来の傑作である。
 
 ビートたけしはそのシーンを、こんなことされたらお笑い芸人はかたなしだという意味のことば(「あれほんとにやられたら絶対かなわいもの」)を発し、笑いのネタにして世間も笑った。
 
 「つかいまわし」に説明の要はないと思うが、客が食べ残した料理を再度出すことで、天ぷらは揚げなおし、アユの塩焼き焼きなおし、魚の造りは盛りなおすという按配。ほかに牛肉の味噌づけの産地偽装をおこない、大阪府警捜査にまで至ってすったもんだのあげく、船場吉兆は2008年5月下旬廃業に追い込まれた。船場は大阪市中央区の古名の名残。商業地区である。
 
 花吉兆で食事していたのは、祇園に同店が開業した1990年代初めの数年間だった。嵐山本店のように豪華ではないが、料金も手頃(1万円〜)ということもあって、何度か店の2階で夕食をとった。
そうこうするうちに松花堂弁当を南座へ配達してくれるということがわかり、桟敷席の場合は席までのデリバリーも可能というので、もっぱら歌舞伎の幕間の食事に利用するようになった。
 
 南座の桟敷席は二人用で、扉を開け靴をぬぎ、掘りごたつ状の空間に足をおろす。座卓2つに座布団、テーブルがある。テーブルの上に肘をついたり飲食物をおけるのは便利。
花吉兆からの出前(松花堂弁当=5000円)は二の膳もあって、テーブルへの配膳は出前の店員がおこなう。幕間(40分)開始と同時に持ってきてくれるのは南座との協力関係による。配膳は桟敷席に対してのみ、椅子席の場合は南座入口へ取りに行く。
 
 松花堂の味はよく、昼の部の食事としてなら量も十分以上、なによりもできたての料理をすぐ食べられるのが好都合。出前の若い男は短髪、いかにも修業中という感じでよかった。
 
 南座へ行く回数が減ってきた2007年12月下旬、船場吉兆の一件が勃発し、二の句がつげなかった。産地偽装も容認しがたいけれど、つけまわしとはふざけたことをと唖然。花吉兆から足が遠のいて久しく、祇園の名を貶める行為は命取りになると嘆息。
 
 その後、花吉兆へは一度行ったきりで、時々、外国人旅行者のすくなかった50年前の祇園をなつかしく思い出す。
 
        南座客席と舞台上手 2013年11月13日(改築前) 椅子席のやや上 欄干のあるところが桟敷席


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