1999年10月初旬、レンタカーで10日間ハイランド地方を旅した。
スコットランドのエディンバラ空港でプジョー406をレンタル、いったん北上し、その後西に方向転換し内陸部へ向かう。
バーンコリーで一泊し、翌朝40キロ西のバラターを経由しピトロッホリーへ向かった。ブレーマーまでは平坦路が多かったが、そこから約50キロ続くグレン・シーの高原地帯を走り、ピトロッホリー到着は午後1時前。
腹すかしの伴侶とその姉はやつれた犬のような顔になっていた。インフォメーションでお勧めのレストランの情報を聞き、姉妹を先に行かせ、町の駐車場に車を駐めた。
坂道を降りて目抜き通り(片側一車線)に出ると、そこにいるはずの姉妹がいない。ギフトショップ数店のぞいたが見当たらない。
郵便局&観光案内所の隣のギフトショップで姉妹は手工芸品を見ていた。完全に買うつもり。姉妹が買ったのは見事な作りの陶器製ペン立て。団子より花、空腹を忘れている。
結局、昼飯にありつけたのは午後1時半過ぎ。おすすめのレストランはほぼ満席だったが、奥のテラスのテーブルのうち一席が空いていた。テーブルに座していたのは見るからに地元の常連客。
注文を取りにきた従業員が、「お昼はセットメニューしかありません」と告げる。隣のテーブル客の皿にのっている料理を見て、これならいけると思えた。
最初に出てきたのは生トマトのスープ。真ん中に皮をむいたトマト半分。スープもトマトも美味。ゆでたての新鮮なホワイトアスパラガスも格別。缶詰とはえらい違い。
メインディッシュは魚料理。ピトロッホリーは内陸部にある。とれたての魚介類はない。出てきたのはフライパンで焼いたタラの燻製(画像とほぼ同じ)。これが絶妙の塩加減で美味。
燻製とは思えないやわらかさ、口当たりのよさ。ふくよかな風味。日本の燻製魚はもっと乾いており、硬い。時間のかけすぎ、塩のきかしすぎ。
子どものころ、12月になると大量の棒鱈が集まった。お歳暮という慣習がなかった時代なのだが、棒鱈を届ける人は多く、みがきニシンもまじっていた。
食感がよくなく、変りばえしない棒鱈が連日朝晩の食卓に出てきたらどうしようと思ったが杞憂に終わる。家族7人(祖父母、両親、子ども3名)ではとうてい食べきれず、1本残してあとは出入りする方たちに差し上げた。
妹が冷凍タラをフリッターにした料理はまずまずの味だったが、所詮そこまで。タラは淡泊な味ゆえ、塩、胡椒をふるか、タルタルソーズなどのソースを使う。
スコットランドでは長期保存できるよう魚介類を燻製にしたとしても、味つけが絶妙。これを食べるために地元住民がやってくるのだろう。インフォメーションはスコットランドで大活躍。ダノッター城へ行く前、ストーンヘイヴンのインフォメーションで教わったレストランのランチはおいしく、従業員もユーモアに満ち、親切だった。
さてニシンの燻製。ピトロッホリーから西へ80キロ、フォートウィリアムの手前で曲がり、グレンフィナン高架橋を見て、来た道を引っ返しケンタレン村のB&B「アードシル・ハウス」(1760年建造)に投宿。
ニール氏と奥方フィリッパさんが営むアードシール・ハウスは知る人ぞ知る料理で名の通ったB&DB。2階建てのハウスは1階はレセピションと談話室、レストラン。2階が客室(6室)。DBは夕食と朝食付きのB&B。
夕食もおいしかったけれど、何を食べたのか思い出せない。記憶に残っているのは朝食。英国流フル・ブレックファストなのだが、ベーコンエッグのほかに自家製ニシンの燻製(焼魚)も出てきた。
バカのひとつおぼえで、「英国は朝食だけがおいしいそうですね」と言う同好会OB女性(5歳くらい年下の後輩)がいた。アードシールハウスの朝食は別格。師走のみがきニシンだけがニシンじゃないよ。ここの燻製ニシンは青天の霹靂。オーナーご夫婦のやさしい顔がよみがえる。
英国を旅して魚の燻製が美味であることを知った。特にタラとニシン。日本であのような燻製を食べたことはない。時は流れ、思い出も記憶の彼方に去って行った。旅人は高齢となり、燻製より乾涸らびた。
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