Nov. 22,2014 Sat    魔法のスパイス

 
 映画「マダム・マロリーと魔法のスパイス」は南西フランス「ミディ・ピレネー」中部タルン・エ・ガロンヌ県のサン・アントナン・ノブル・ヴァルを舞台に繰り広げられるレストラン経営者と料理人たちの物語である。料理人の男女(インド人とフランス人)が自転車に乗ってきのこ狩りに行く。まずもってロケーションにしびれる。秋になるとこの地方特有のキノコが採れ、皿にそえる。食べたことはないがうまいらしい。
 
 インドのムンバイでレストランを経営していた一家が暴動による火災で母を失い、ヨーロッパに移住、おんぼろ車で各地を転々とし、車の故障で立ち往生したのがサン・アントナンの高台。そこに通りかかった若い女が自宅で地元産の野菜やチーズなどの夕食をふるまう。トマトのあまりのうまさに父親はこの町でインド料理店を開く決心をする。
たまたま廃屋になっている建物がマダム・マロリー(ヘレン・ミレン)が経営するフランス料理店の前にあったことから、そこを買い取り改装しインド料理店をという按配なのだ。そこからの筋立てはよくある話であっても、役者のうまさでみさせてくれる。
 
 英国の名女優ヘレン・ミレンは「映画を見終えた人たちがおいしいものを食べたくなる云々」と言ったそうだが、ヘレン・ミレンほか出演者の魅力が横溢するこの映画こそが極上のごちそうである。フランス国旗の青白赤は自由平等友愛をあらわし、以前「トリコロール」というフランス映画(青の愛&白の愛&赤の愛 3部作)の名作もあった。スパイスは料理のみにあらず、三色旗の精神も象徴しているような気もする。とりわけマダム・マロリーの友愛を。
 
 映画「クィーン」でオスカー主演女優賞に選ばれたヘレン・ミレンは授賞式に欠席した。これしきの演技で主演女優賞とは片腹痛い、米国のプレスと映画関係者は何を考えているのか、と思ったかどうかは知らないけれど、ジュリア・ロバーツやヒラリー・スワンクなど、男優ではトム・ハンクスのような大根が受賞するアカデミー賞とは何なのか。返上は物議をかもすから論外としても、授賞式なんか出たくもなかったのではないだろうか。
 
 ヘレン・ミレン生涯の当たり役・テレビ映画「第一容疑者」の警視ジェーン・テニスンは背筋がぞくぞくするほどのうまさであるし、映画なら「英国万歳」、「カレンダー・ガールズ」、「ゴスフォード・パーク」といった名品もある。「クィーン」以前にこれはと思う出演作はあっても、その後パッとした作品にめぐまれずがっかりしていた贔屓にとって「魔法のスパイス」はヘレン・ミレン会心の傑作である。
おいしいフランス料理を食べに行く時間も予算もないという人がいたら、いや、そういう環境は整っていても、ミシュランの星はあてにならないと思っている本格派なら、この映画は星いっぱいの食べごたえのある、あっという間の2時間です。
 
         ☆上の画像は「サン・アントナン」にリンクしています☆

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