Oct. 06,2011 Thu    ゴーストライター
 
 一昨日「ゴーストライター」をみた。ことしみた英国映画は「英国王のスピーチ」、「アメイジング・グレイス」、そして「ゴーストライター」。アメイジング・グレイスは主役より準主役のベネディクト・カンバーバッチが印象に残った。テレビドラマ「シャーロック」のシャーロック・ホームズ役も見事だった。
英国王のスピーチはジョージ6世を演じたコリン・ファースがオスカーを受賞したこともあって名を上げたけれど、アメイジング・グレイスは題名すら無名に近い、同名の歌はあまりにも有名であっても。
 
 ゴーストライターはケンブリッジ大卒の英国元首相の自叙伝を書くために出版社に雇われた、名前も出せない、したがって作家ですらない、しがない物書きである。しかし文章はうまい。だから出版社のオーナーに白羽の矢をたてられる。前任のライターは首相の補佐官であったが、フェリーから転落し不慮の死を遂げる。
 
 彼はロンドンを発ち、ニューヨークで小型飛行機に乗り換え、小さな島に到着する。この島たるや、ちっぽけなフェリー乗り場と古ぼけたホテルが一軒しかない辺鄙というほかない絶海の孤島。毛足の長い雑草が風に大きく揺れる浜辺はあたかも北イングランド・北海沿岸のごとし、絶好のロケーション。前任者の遺体はそこに打ち上げられた。
 
 元首相の奥方は美人でしっかり者であるが、夫が秘書とそういう関係にあると思い悩んで孤独をかかえている。ゴーストライターは内部の事情を見たくもないのに見せられ、4週間の期限内に書き上げなければと気持ちを強くもちつつ、元首相の直近の政争、夫婦の内紛に巻き込まれてゆく。
映画ははじまった3分でおもしろさが分かる。わくわくする展開、スリリングな描写、アガサ・クリスティのドラマを彷彿とさせる軽快で推理タッチな音楽。随所にちりばめられた英国式ユーモア。自然で無理のない演出、舞台装置と小道具。ロマン・ポランスキーが仕上げた英国ミステリーの真骨頂を示すステキな作品。
 
 役者も揃った。ゴーストライターにユアン・マクレガー、元首相にピアース・ブロスナン、奥方にオリヴィア・ウィリアムズ、秘書にキム・キャトラル。不審な大学教授にトム・ウィルキンソン。島の老人にイーライ・ウォラック(米国の俳優)。演技を感じさせない、いずれ劣らぬ名役者。
うまい役者はいつの世もそうだが演技していない。現実ではないのに現実を想起させ、しばし現実を忘れさせ、ふたたび現実に戻される。ことし上映された映画のナンバー1。

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