Mar. 21,2016 Mon    京都人の密かな愉しみ 冬

 
 昨夏(8月15日)放送された「京都人の密かな愉しみ 夏」の続編が3月19日に放送された。これで初回から3回目ということになる。今回の冒頭部は冬の北野天満宮。それでというわけでもないが、2011年3月17日の梅と雪が同時に楽しめる画像を貼ってみた。
 
 前2回と較べてよくないと思ったことを挙げると、ドラマの部分が減り、風物詩の部分が増えたことである。従前はオムニバス形式のドラマが3話あり、ドラマそれぞれに行事や伝統文化を織りまぜた演出が光っていたけれど、今回はそういう工夫は少なく、ドキュメンタリーと称してノンフィクション部分を多くした。その結果どうなったかというと、面白味が薄くなった。
ドラマ部分に関しては、主役の常盤貴子、団時烽フ出演場面が激減し、雲水役・深水元基にいたってはほとんどが回想シーンで、新しい場面といえばラストで団時烽ニ出会う奥丹後海岸だけだ。
 
 脚本と演出を担当しているのは立命館出身の源孝志である。なにがどうなのかよくわからないが、いくらドキュメンタリーと銘打っても手抜きしたような印象を視聴者にもたせるのはよくない。これまでの脚本、演出が傑出していただけに。
それでも前回よりよくなったというか、次回のたぶん春編をみる愉しみができたのはエドワード・ヒースロー(団時焉jが雲水にものを尋ね、物語の続きを予感させるシーンである。一方は逃亡、他方は行脚、両者はともにヒゲもじゃ。
 
 朝ドラ「マッサン」でエリーをやったシャーロット・ケイト・フォックスが前回終盤に出てくる、団時烽追って。2015年8月16日の「書き句け庫・京都人の密かな愉しみ」に書き記した「イングランドから上洛する人物(もしかしたらスコットランドから来たのかもしれない)」は、「マッサン」のエリーがヨークシャーからではなくスコットランドから来日したからだ。
 
 今回のドラマで彼女は言語学を同志社大学(洛志社大学となっているが)で教えるという設定になっている。専門は違ってもエドワード・ヒースローと同じような役どころ。京言葉の矛盾、不可思議さに反発しつつ興味を持ち、常盤貴子やその母親役の銀粉蝶の京都弁を嫌いながら染まってゆく。
エドワード・ヒースローを追ってきた若い女(シャーロット・ケイト・フォックス)の正体が明かされる。ヒースローの娘か妻かでHKと論争はおこらなかったが、結局、妻でも娘でもなくヒースローの婚約者の娘。自由を得たい一心で婚約者から逃げたヒースローであるけれど、元婚約者が死ぬ間際、自分の娘にヒースローの嫁になれと遺言するとは。
 
 そのあたりの演出にムリがあるような気もする。母親は夫を愛せなかった、終生愛したのはヒースローなのだという気持ちはわからないでもない。親子ほど年の離れた男を自然の成行きで娘が愛してしまうというのなら構わない、しかし母親が死の床で自分の代わりに結婚せよと娘にいうのは英国らしくなく怪談めいている。 
 
 常盤貴子が最初に着る地味な灰色の大島紬、次の泥大島を見事に着こなしていた。特に泥大島の色は陽が射さねば見分けられない赤が入っており、日陰や曇天、室内で見れば黒にしかみえない。大島紬は京都でつくられる着物ではない、が、随所にちりばめられた京都独自の食文化、風俗習慣だけでなく、日本のさまざまな服飾文化も愉しみたい。 
 
 今回は戸田菜穂も出ている。若手の注目株であった戸田菜穂もすっかりベテランの仲間入りをした。カドのない戸田菜穂が、ここではどこかカドを残し、役のハラをつかんでいる。そこがドラマの魅力ともなっている。
「向田邦子終戦特別企画」、あるいは「向田邦子新春」シリーズの何本目かおぼえていないが、二人の名優、杉浦直樹、小林薫と共演したのがきのうのことのようだ。戸田菜穂は奥丹後を舞台にした朝ドラ「ええにょぼ」の主役をつとめ、兄役の今井雅之が世に出た。時は容赦ない、5年前杉浦直樹が、昨年今井雅之が鬼籍に入ってしまった。
 
 目のまわりに漂う幽かな色気は戸田菜穂の財産であり、戦前戦中の昭和の女、戦後の京女をうまく演じられる稀有な女優である。 宇治にある興聖寺の住職をやった伊武雅刀のせりふ「煩悩は煩悩でも、寂しさは金、未練は銀」も心に残る。
京女を演じて秀逸な常盤貴子、エドワード・ヒースローという生涯の当たり役にめぐりあった団時焉A次回の展開がどうなるか深水元基。春編が待ち遠しい。 

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