Nov. 19,2015 Thu    警察署長ジェッシィ・ストーン

 
 トム・セレックは上背があって体格がいい。目が大きく、やさしげな顔をしている。トムといえばトム・クルーズが名前を知られていて、トム・セレックは28年前、米国映画「スリーメン&ベビー」に主演したくらいで有名とはいえない。「スリーメン&ベビー」の続編として3年後に「スリーメン&リトル・レディ」(1990)という映画も公開されたけれど。
トム・セレックは二枚目半役だった。大きな男2人が2ドアのミニ・クーパーに窮屈そうに座って英国カントリーサイドを走行したシーンが印象に残るスリーメン&ベビーがすこぶるよかったのでリトル・レディもみにいった。やはりトム・セレックがよかった。外形はいかついのに癒やされるのである。
 
 わずか2本、それも四半世紀以上前にみたのに、トム・セレックの名は記憶に刻まれていた。この20数年、ジョージ・クルーニーは別として米国に贔屓俳優はおらず、しかも公開される映画は駄作の山を築き上げた米国を象徴する作品が多く、配給会社の怠慢のせいで、これはと思う作品は日本に入ってこなかった。
場当たり的で評にかからない映画をいつまで輸入しつづけるつもりか知らないが、いいかげんにしてもらいたい。映画館もどうかしている、バカでかい音響を流し、これでもかとCGを多用する映像はやかましいだけでみるに値しないことを知るべきである。
 
 というような前文で始まるのは、同じことを何度書き記しても状況は変わらず、もしかしたら小生の目の黒いあいだはこのまま推移するのではないかと思えるからで、映画館で一般公開される作品よりむしろテレビで放送されるものにみるべきものがあったりするからだ。それに音量も自分で調整できる。
その昔、ロバート・ミッチャムがフィりップ・マーロウをやって以来、米国におけるミステリードラマの凋落はいかんともしがたく、英国・フランス映画のリメイク版にまずまずの作品はあっても、原版をみているから編集のできばえをみて興ざめするのがオチ。そんななか、11月8日、15日と2週連続でトム・セレック主演「警察署長ジェッシイ・ストーン」全8話(WOWOW)が放送された。
 
 すぐれたミステリーは事件そのものが巧妙にかたちづくられているし、ストーリー展開もゆったりした展開のようにみえて実は早い。始まったと思ったら終わっている。時間を感じさせないのはドラマにムダがなくおもしろいからだ。そして、おもしろいドラマの常として最初の3分、または5分で視聴者の気持ちを映像に入り込ませてしまう。
特筆すべきは主人公が率直かつ魅力的であり、陰影に富み、しかも演技を感じさせない。捜査中には出ない人間くささが日常の何気ない行為に出る。共演者の心情もここぞという時にさりげなく吐露される。
 
 英国と米国のミステリーの違いをあえていうなら、米国の優秀な捜査員の多くは鋭い感性を持っているが、孤独で癒やされることは少ない。癒やしに代わる潤いを求めて異性のあいだをさまよい、時には苦い酒を飲む。英国の捜査員はどこが優秀なのかわからない展開が続き、いつのまにか彼らの見事な人間力に魅せられる。
英国米国に共通しているのは、捜査員の仕事は決して順風満帆ではないし、家庭運に恵まれているわけではないという点である。仕事も家庭もうまくいっている人間に難事件を解決するだけの豊かな感性は宿らないだろう。
 
 ミステリーファンは容疑者逮捕ではなく、疑惑が明らかになり、謎が解けることによってすっきりする。謎解きは楽しみのひとつだけれど、ミステリーに不可欠なのは、愛する人、あるいは愛した人を苦しめる人間を許すわけにはいかないということである。そう思うことで自分と向き合うのだ。
トム・セレック演じるジェッシイ・ストーンに魅了される理由はそこにあってほかにない。法律はやっかいものだと彼は思っている。しかし、さらにやっかいなのは、公職にありながらそれを利用して法を曲げる人間や、公的機関の収入を増やすために庶民をいたぶる輩なのだ。彼はそういう人間や組織を嫌う。
 
 そんな主人公が約90分のドラマでどのように描かれているかがみもの。舞台はボストンに近い海浜の田舎町。署長を含め署員4名の警察署。舞台がニューヨークやロサンゼルスでないところがいい(英国のミステリードラマの舞台も地方の町が多い)。第6話から第8話に至るスリリングなタッチ、ストーリー運びは秀逸。
 
 時々思い出したように「刑事フォイル」のようなミステリーの名作を紹介する有料放送局NHKを除いて、2005年〜2012年に米国で放送された見応えのある辛口ドラマ「警察署長ジェッシイ・ストーン」を紹介しなかった民放各局はいったい何を考えていたのか(スターチャンネルはWOWOWより早く放送していたらしい)、無料だから怠慢なのかと思う一方で、2015年秋、米国で放送されたという第9話の日本での放送が待ち遠しい。

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