Nov. 10,2016 Thu    京都人の密かな愉しみ 月夜編
 
 ことし3月21日、「京都人の密かな愉しみ 冬」に「春編が待ち遠しい」と書き記した。が、春の前に秋の月夜編が放送された。京都になじんだ者にとって愉しみなのは、ドラマの展開のほかに何が紹介されるかで、今回(11月5日)は平安期から観月で有名な大沢池、嵐山の大悲閣千光寺、嵯峨野の大河内山荘、中京区六角通の六角堂(頂法寺)などが紹介された。渡月橋から大堰川左岸の小道を歩けば、到着間際に若干の急坂はあるけれど、千光寺まで簡易ハイキング。
 
 テーマが月ということで、随所に月の名を冠したものが出てくる。宮川町の芸妓は葉月、舞妓は豆月、バーは月下。古美術商は雨月。おはぎにも蘊蓄があり、月と関連のある夜舟(夏)、北窓(冬)。春のぼたもちはボタンの花に由来し、夏の夜舟は暗くていつ岸に着くかわからない。おはぎ用のモチ米は臼で半つきにする。「着く」と「つく」をかけているのだ。冬の北窓は、いつモチをついたのかわからない。月の見えないのは北窓というわけである。秋のおはぎは萩。
 
 食べ物についていうと、京風弁当が巧みに使われる。古美術商の妻が丹精込めて何度かつくったおいしそうな弁当と笛、月の組合わせがおもしろい。妻はときめき、夫は色めく。そして相手から肩すかしを食らう。肩すかしを食らわせた男女が実は互いに思いを寄せるという筋立てもいい。
芸妓役の黒谷友香が障子を開けると空に月が出る。有明の月である二十六夜の月は午前1時ごろから午前8時ごろまで見ることができる。有明の月の名の由来だ。月は仏と関連づけられる。十三夜は虚空蔵菩薩、十五夜は大日如来、二十三夜(下弦の月)は勢至観音、二十六夜は愛染明王。愛染明王は仏と人間の間にあって、女性に愛を授けることを役目のひとつにしている仏とされる。
 
 うまい役者なら、空を見上げて「ええ月やなぁ」というだけで、ほんとうに月が見えるような気にさせてくれる。当代片岡仁左衛門はそういう役者である。黒谷友香がそこまでいかないのはしかたないとして、芸者のカツラは似合わず、アップの髪型が似合う女優なのだが、大阪府堺市出身であることと、面立ちと雰囲気が私の知る奈良三条の芸妓に似ているせいか、宮川町の芸妓役がさまになっていた。
 
 さまになっているといえば、舞妓の豆月をやっていた山口瑞姫が京都弁も所作もホンモノの舞妓然としてよかった。出身地は兵庫県、放送日の年齢は19歳ということで、今後の役回り如何によれば成長が期待できる。京ことばは首都圏出身の俳優には難しい。見事に京ことばをつかいこなしている主役の常盤貴子は小学4年ごろ〜高校1年ごろまで西宮に住んでいた。
 
 ドラマ冒頭で常盤貴子は携帯電話を使い、受信相手の留守電メッセージが流されるシーンがある。それは男でフランス語のメッセージなのだが、この場面に関して今回はまったくふれていない。ということは次回、男が誰で、常盤貴子とどういう関係なのか明かされるということだろう。
常盤貴子は9代つづく老舗和菓子店の跡取りである。彼女の母・銀粉蝶は月のかがやく夜、夜なべ仕事をしながら店をたたむとつぶやく。母子はともに悩みをかかえている。その実態も次回解き明かされるのだろうか。腹違いの弟で雲水役の深水元基の出方も気になる。
 
 番組のBGMのなかでも歌はこれまで一貫して「京都慕情」だったけれど、今回は「なのにあなたは京都へゆくの」が入っていた。渚ゆう子の「京都慕情」は名曲である。歌唱力は当然として、渚ゆう子ならではの風情、香り、色気に満ちていた。
番組では仙台出身の武田カオリが歌っている。場面、場面に応じた1〜2小節どりである。歌は渚ゆう子に及ばないまでも、しっとり歌っているのがいい。
「なのにあなたは京都へゆくの」はチェリッシュのデビュー曲。チェリッシュの女性ボーカリスト松崎悦子(通称エッちゃん)の声は美しい。ただ美しいだけでなく歌唱力、透明感もある。彼女の4歳下で「木綿のハンカチーフ」を歌った太田裕美もきれいな声をしていた。いま、あのようにステキな女性歌手はいるのだろうか。
 
 チェリッシュの歌のなかに「古いお寺にただひとり」がある。京都好き人間の戦後生まれ、とりわけ昭和20年代から30年代に生まれた人なら知っているかもしれない。京都を慕う者にとって、いわば「賛美歌」(京都に対する)ともいえる歌である。
 
 笛、鴨川、弁当、月をうまくつかって仕上げたドラマで笛奏者が稽古する鴨川は荒神橋のたもと付近、丸太町通と今出川通のあいだの河川敷だ。北の今出川通まで行けば、その先は糺の森。笛吹弁当、鴨川弁当、月見弁当と弁当の前につけても合う。演出家がそこまで考えたかどうかはともかく、おいしく見栄えのする弁当はみるだけでも楽しい。
古美術商の妻は亭主ではなく笛を吹く男に弁当をつくる。亭主は宮川町のバーで芸妓相手に盃を傾ける。バーには遊び仲間もいる。これが結構な役者(菅原大吉)で、歌舞伎ふうにいえば「つっころばし」(軟弱+滑稽)をケレン味なく自然にやっている。せりふも芝居運びもうまい。そこにいるのは京都に老舗を構える旦那そのものだ。
 
 もうひとりの主役エドワード・ヒースロー役の団時焉B洛志社大学(同志社)で教鞭をとっていたヒースローも珍客というか招かざる女(シャーロット・ケイト・フォックス)の登場により逃亡生活。奥丹後で雲水(深水元基)に出会って、ともに宇治の興聖寺へ。そこで住職(伊武雅刀)の許可を得、寺男になって料理の腕をふるうこととなる。
聞きたがりの伊武雅刀との会話に金髪の女が出てくる。坊主頭は金髪に興味をもっている。金色夜叉に「今月今夜のこの月を云々」というせりふが出てくる。美しい月は金色にかがやき、金髪女はなぜか洛志社で教えている。
 
 番組がはじまって90分経過、残り時間30分を切りかけて、もう出てこないだろうと思ったのに出てきたのは料理研究家の大原千鶴。せめて今夜くらいは静かな夜をむかえたいと願っていたのに、どうして出てきたのという感じ。にぎやかを通り越してやかましい大原千鶴、出すならもう少し早めに出してもらいたい。終盤近くになって出すのはツヤ消し。
 
 料理はというと親子丼にタマゴの黄身を入れ月に見たてるという按配なのであるが、タマゴの上にタマゴとはユニークというか、屋上屋(を重ねる)というか。大原千鶴は京都市左京区花脊出身、花脊の実家は摘草料理「美山荘」。
結婚前、実家を手伝っていたという彼女、裏山でマツタケが採れ、マツタケずくしの料理を手伝っていたら、鼻孔の奥に匂いがこびりつき、ふつうのご飯なのにマツタケの味がしたと言う。口から出まかせとはこのことか。出演者はほかに佐川満男、本上まなみ、安藤政信、丸山智己など。
 
 鴨川べりで笛(能管)を吹いていた実際の奏者は誰かと番組最後の出演者関係者の字面を見たが該当者なし。能管なので、能楽、あるいは歌舞伎の囃子方、つまり本職の誰かが吹いていたと思われるけれど、番組の俳優の設定からすれば、うまく吹くとヘンだし、わざとらしくヘタに吹いてもヘン。
囃子方でも藤田六郎兵衛本人、もしくは同等クラスとなればあえて名前を伏せるかもしれない。祇園囃子でも能管が使われるそうだが、その関係者ではないだろう。この点はっきりしてもらいたい。
 
 次回が春編になるのかどうか判然とせず、続編がいつあるのかもわからず、わからないまま次回の放送が待たれる。
 
 

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